「現状維持の心地よさ」(2016年10月30日週報巻頭言 牧師 藤井秀一)

 動物園のライオンは、サバンナにいた頃は空腹に耐えながら、自分で餌をとるために歩きまわっていたでしょう。しかし動物園の檻の中で争いもなく、毎日おいしい餌までもらううちに、ライオンらしく駆け回っていた大草原の自由な姿はどこへやら。狭い檻の中の暮らしがすっかり気に入ってしまった、寝てばかりの巨大な猫になるわけです。

人間も「住めば都」という諺があるように、同じ環境、同じ場所に慣れ親しみ居心地がよくなると、その状態をできるだけ維持する力が働きます。新しいことが続かない。三日坊主になりやすいのも、今までとは違うことや、変化や成長という居心地を悪い場所にとどまれず、居心地のよい「現状維持」へと向かわせる強い力があるからです。

 そんな居心地のいい現状から、だれかが飛び出そうとするなら、周りの人は自分の居心地が悪くなり、不安ゆえに、その人を引き下ろしたくなるものです。

「もしうまくいかなかったらどうするの」「できるわけないよ」「どうせ無理」

イエスさまは、30歳を過ぎて、キリストとしての召命に目覚め、居心地よい家族から離れたとき、家族から「あの男は気が変になっている」(マルコ3:20)と言われました。

また自分たちが作った伝統の中で、居心地よく過ごしていたファリサイ派の人々は、イエスさまの言葉に居心地悪くさせられ、イエスさまを憎みました。

そして今、3.11を経験してもなお、原発を「現状維持」する力の強いことを、私たちは知っています。

「現状維持」の力から、わたしたちを解き放つ、聖霊の風が吹きますように。

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